MB13が摂取したもの

読んだもの、見たもの、食べたものなど、外から取り入れたもの全般についての感想を書いておくチラシの裏

いやな感じ

いやな感じ (1963年)

いやな感じ (1963年)


一人のアナーキストである加柴四郎が、大逆事件後の明治をいかに生きたか、ということを、自伝的小説みたいな感じにまとめたもの。大川周明が小川秋明、北一輝が南一光、永田鉄山が長田哲山、宇垣大将が尾垣大将など、実在の人物をモデルにしたキャラクターが多く登場し、軍国主義に傾いてゆく時代の中で、なおアナーキストであり続けようとする四郎さんが大いに苦悩するといった雰囲気。筆者(高見順)が体験した「時代」を記録しておきたかったんだとかなんとか。

単純に面白かった。堺枯川大杉栄らの活動についてと、大逆事件、和田久の福田雅太郎狙撃、虎ノ門事件あたりの事はある程度細かく知っていたのだが、難波大介はおかしな野郎で単独犯だったし、和田久太郎以降(五・一五とか二・二六とか)になってくるとむしろ軍部や内閣、天皇周辺の人の話の方が多くてアナーキズムがどうなっていたのか、イマイチ分からなかった。アナーキストであるにも関わらず、組織を嫌って左翼のボリシェヴィキと対立し、なぜか軍部の青年将校と仲良くなってしまう。彼らの主張する「錦旗革命」*1を利用して「黒旗革命」を成し遂げようと思いつつ、無軌道な行動に走ってしまったりする主人公の様子などは、アナーキストの抱える、ある種の弱点を体現しているようなものかもしれない。

*1:皮肉な事に、当の天皇は西欧型のリベラルな教育を受けてきたため、錦旗革命など望んではいなかった