MB13が摂取したもの

読んだもの、見たもの、食べたものなど、外から取り入れたもの全般についての感想を書いておくチラシの裏

イワン・イリッチの死

イワン・イリッチの死 (岩波文庫)

イワン・イリッチの死 (岩波文庫)


イワン・イリッチはごくごく平凡な役人である。安定していて不自由の無い暮らしと、当時においてはきわめて一般的な家庭。その彼が、ひょんなことが原因となって次第に死へと追い込まれてゆくことになる。その中で、ただ人生の平安と心地よさだけを追い求めてきた自分の生き方を振り返り、人はいかに生きるべきかについて考えるというお話。

メインテーマであろう「いかに生きるか」という事については正直実感を持って感ぜられなかったというか、すんなりと入ってこなかった。むしろ僕としては自分なりのこだわりや興味に基づいて一生懸命作ったはずの家が、他人から見るときわめて平凡で没個性的であったというくだりなどが、我々の身の回りでも度々見られる俗物性の顕現であり、イワン・イリッチを親戚などに当てはめてみて、なんともいえない気持ちになった。当然僕自身も似たようなものであろう。

自らのこだわりなんてものは他人から見るとどうでもいいことであり、しかもそのこだわりなるものも案外大勢の人々と大差のないものであったりする。しかしながらその僅かな違いというか、あらかじめ用意されたその選択に固執して、そこでしか自己を主張できない、あるいはその違いこそが自己表現であるといったような錯覚にとらわれている事こそ、没個性の骨頂なのかもしれない。そもそも自分が他人と異なっているという事自体、平均化された「他者」というものからの差異によってしか計れないのだから「こだわり」というアイデンティティを確立しようとすれば必然的にその他大勢の他者という文脈に埋没しなければならない。そのようなものを追い求めても、死の間際においては何ら彼を慰めはしてくれない。