MB13が摂取したもの

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 蒼き狼の血脈 小前亮

チンギスの長子ジュチの子バトゥを主人公とした歴史小説。チンギス、クビライなどと比べるとやや知名度で劣るバトゥであるが、ルーシにタタールの軛をもたらしたのは彼であるし、その西征はヨーロッパ諸国を恐怖のどん底にたたき落としたという意味ではとても印象的な人物であるように思われる。

バトゥは、父のジュチが生まれに疑惑をかけられていたことから、才能と人望を兼ね備えた人物であったにもかかわらず、ハンの位を継ぐことができなかった。従って、内心どこか納得の行かないものを抱えつつも、やがてジョチ・ウルスの支配者として、生きていく道を自ら選ぶ。このあたり、とても現実的で大人の対応ですね。だからこそ破天荒さに欠けて、派手さという点ではやや劣るというのもあるのかもしれませんが、人間としてはとても尊敬できる対応です。

モンゴルには全く興味がなかったのだが、ジョチ・ウルス近辺の事情をなんとなく把握することが出来たので、それは収穫であったろう。タタールの軛でノヴゴロドが直接的な被害を受けなかったという点、アレクサンドル・ネフスキーがモンゴルに従属的な政策をとった点などは、アガフィヤという女性の存在を通じて合理的な説明が行われているが、この辺実際はどうだったのだろうか。まぁ、彼女の存在を含めてこのあたりの下りが創作であったとするならば、なるほど、さもありなんという程度の説得力を持つ内容ではあった。
小前亮の本は何の知識もない初心者でも、面白くてスイスイ読めてしまう。小説だし、学問的な厳密さはとりあえず気にしない事にすれば、雰囲気を掴むための入門としても最適ではないか。