MB13が摂取したもの

読んだもの、見たもの、食べたものなど、外から取り入れたもの全般についての感想を書いておくチラシの裏

『敦煌』 井上靖

敦煌 (新潮文庫)

敦煌 (新潮文庫)

井上靖の西域ものその2。淡々と事実を並べるようなドライな桜蘭*1と異なり、一人の主人公を中心とした、物語らしい物語。科挙に失敗した宋人"趙行徳"がフラフラと市場を歩いていたところ、奴隷として売られていた西夏女性と出会い、そのエネルギーに衝撃を受け、彼女の生まれた国を一目見ようと西域へと旅立つ。しかし主人公は西夏の軍隊に捉えられ、その一員とされてしまう。その後、時代の流れに巻き込まれ、主人公は……という話。20世紀に、敦煌の石窟から大量の経典が発掘されたという史実の裏がどうなっていたのかを妄想する話。

 

主人公の趙行徳は一つのことに熱心になりやすい性格とのことなのだけど、小説自体の長さの割に年数がそれなりに経過するので、その移り変わりの早さに自分はついていけず、むしろかなり適当な性格であるように感じてしまった。僕はそこまで中国史にも、当時の儒教や仏教などの思想状況にも詳しくないし、残念ながら人生経験も豊富な方ではないので「この頃から仏教の本を読み漁るようになりました」と言われても「なんで?喪失感から無常的なものに親近感を覚えたのか?」という程度にしか思えなかった。ある程度知識のある人が読めば共感できるものがあるのかもしれないが、僕レベルの人間からすると、その辺の精神的な変化についても、もう少し筆を割いて欲しかった。そこまで触れられていれば、トルストイばりの重厚な小説になったのかもしれないけれども、このくらいの軽さにしておかないと、逆に読者が減るのかもしれないとも思った。