中村健之介『ニコライの見た幕末日本』
- 作者: ニコライ,中村健之介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1979/05/08
- メディア: 文庫
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幕末に領事館付き司祭として函館へやって来た正教司祭ニコライは、将来的な日本での布教に向けて日本の歴史や宗教について研究した結果をレポートとしてまとめあげ、雑誌に投稿した。そのレポートを訳したものが、本書である。したがってザビエル書簡のような、日本の人々の様子を記したものよりは、学術よりの内容となっている。
彼は日本語の勉強もして日本の本を読み込んだらしく、歴史や宗教(仏教、儒教、神道)についての記述は結構な正確さを誇っている*1。彼は正教の司祭、つまりキリスト教が正しいと信じているし、進歩主義全盛の時代なので今の時代の我々から見れば同意しかねる見解もあるが、当時のロシア人が日本の首都でもない函館でここまでの知識をつけていたという事には舌を巻いた。
また、恐らく日本で本を読み込んだ為であろうが、日本人は庶民でも識字率が高く貸本屋の本を借りて読むのでどの本も手垢まみれでボロボロであり、自国の歴史についても詳しい等と日本人を正当に評価している面があり、宗教についても下手な現代日本人よりはよっぽど詳しそうだ。正教を布教しようという熱意に燃えての事ではあるだろうが、日本を頭から否定せず、まずはこれほど真摯に向き合ってくれていたのだと思うと、なかなかよい人が来てくれたものだと感動すら覚えた。
全体として良い本なのだが、その一つにして最大の欠点は、全体的に学問的記述が簡潔にして正確、言い換えれば教科書的で普通であるため、日本の歴史や宗教について少しは知っている日本人ならば、書かれていることの多くは既知のことで新しい情報は得られないという点である。日本に対するトンデモ解釈などを期待して手にとると、あまりに普通の事しか書かれていないので、挫折すると思われる。
もっとも、当時の函館で日本語の勉強から始めてその「普通」にまで到達し得た所が、彼の一番凄い所なのだけど。
*1:もちろん当時としては、という前提の元に